ラムサール通信
2009年5月6日発行 第122号


●第81回<ワイズユース>ワークショップのご案内●
「佐潟にトキが来たら、どうする?」

 2008年9月25日、佐渡で試験放鳥された10羽のトキは、その後8羽が無事、野生復帰に成功し、現在も元気に生息しています。しかし、関係者の「予想を超えて」4羽のメスは島外に飛翔し、1羽は佐渡に帰ったものの、残る3羽は新潟、長野、福島、宮城などを自由に回遊し、人々をびっくりさせながら、1羽はとうとう山形県まで到達しているのはご承知のとおりです。不測の事態を懸念する新潟県、佐渡市からは、捕獲・保護、佐渡への移送を望む声もあがっています。
 ラムサールセンター(RCJ)では、放鳥後のこうした事態を想定し、一昨年「時と湿地プロジェクト」を立ち上げ、トキが飛来する可能性のある地域を中心に、トキとその生息地である湿地の保全のためにどのようなCEPA(コミュニケーション、教育、普及啓発)活動が必要とされ、かつ、どのようにそれを実践していけばいいのかを、地域の人々と考え、討議し、実践していくためのワークショップを、全国各地で開催していく計画を進めてきました。
 その最初のワークショップを、佐渡の対岸にあり、トキがとんでくる可能性のもっとも高い地域のひとつと考えられる新潟市佐潟(ラムサール条約登録湿地)において、以下のように開催します。なお、このワークショップは、RCJ第81回<ワイズユース>ワークショップとなります。

「佐潟にトキが来たら、どうする?」ワークショップ

日時 2009年5月17日(日) 午後1時30分〜4時
場所 佐潟水鳥・湿地センター(新潟市)
住所:新潟市赤塚5404-1  電話:025-264-3050
主催: ラムサールセンター/佐潟水鳥・湿地センター
後援・協力: 環境省関東地方環境事務所/新潟県/新潟市  (依頼中)
バンロックステーションワイン/やまや
プログラム: 午後1時30分〜 開会
      第1部:報告および話題提供
            「トキの野生復帰の意義と、放鳥後のトキの現状
               笹渕紘平さん(環境省佐渡自然保護官事務所レンジャー)
            「トキの生息に適した環境づくり」
              本間航介さん(新潟大学准教授・トキ野生復帰専門家)
            「本土に飛来したトキのモニタリングについて」
              本間隆平さん(新潟県野鳥愛護会・トキ調査協力員)
            「トキが来たとき、関川村ではどうしたか」
              田村健一さん(新潟県関川村教育委員会生涯学習課長)ほか
      第2部:自由討議「もし、佐潟にトキが来たら」




●「KODOMOバイオダイバシティ」活動がスタートします●
子ども交流会議の開催湿地と、パートナー団体を募集しています

 2009年度地球環境基金に助成要請していた「KODOMOバイオダイバシティ(生物多様性と生きものを守る子どもたちの運動)」事業に、内定(600万円)がでました。この活動は前号でもご案内したように、2006〜2008年度の「ラムサール条約を子どもたちのものにする−KODOMOラムサール」活動の成果と実績を発展・継承し、2010年10月に名古屋で開催される第10回生物多様性条約締約国会議(CBD・COP10)に向けて、子どもたちといっしょに生物多様性条約と湿地のバイオダイバシティの重要性を考え、保全のための活動をしていくことを目的とした2年計画事業です。
 今年度は、主に国内のラムサール条約登録湿地を舞台に少なくとも3か所以上での「KODOMOバイオダイバシティ」湿地交流の開催が目標です。湿地の生きものを知るフィールド学習、お互いの体験を共有する活動交流、生きものを守るために何ができるかを考え、話し合うディスカッションなどからなる1泊2日のプログラムを基準とし、参加人数は、開催湿地周辺の子どもを中心に30〜50人を予定しています。地球環境基金の内定を受け、現在、支援予定の滋賀県や積水化学工業などと実行委員会を組織し、活動をスタートさせる準備中です。
 この「KODOMOバイオダイバシティ」湿地交流の主催地となり、RCJのパートナーとして、いっしょに活動、協力してくださる湿地と団体を募集しています。CBD・COP10開催を機に、生物多様性問題への関心、理解を深め、生きものを人の豊かな環境づくりをめざす運動に、自治体、NGO/NPO、企業、学校、エコクラブなど・・・、全国のみなさんの参加、協力をよびかけます。
 ラムサールセンター事務局までご連絡ください。具体的な相談をすすめたいと思います。ラムサール条約登録湿地以外の湿地からの声も歓迎します。



●エコライフ・フェア2009「湿地の恵み展」(6月6〜7日)を今年も開催します●
参加申し込み締め切り間近です。エントリーはお早めに

 ラムサールセンターと日本国際湿地保全連合(WI-J)、ラムサール条約登録湿地関係市町村会議は今年も協力して、環境省主催の「エコライフ・フェア」(東京・代々木公園)に、「湿地の恵み展〜ラムサール条約湿地の観光と物産」を出展します。会場を訪れる毎年7万人規模の来場者に対し、ラムサール条約と国内37カ所の条約登録湿地を紹介し、湿地の価値やその保全と賢明な利用の重要性について普及啓発を図るとともに、美しい景観や、物産、行事、文化など、湿地が私たちに与えてくれる豊かな恵みを紹介、PRして、地域振興の一助ともなることをめざjしています。
 この趣旨に賛同し、特設テントの借り上げ料(30万円)の一部負担や、展示ポスター、パンフレット、試供配布用の物品などを提供してくださる参加団体を募集しています。ラムサール条約登録湿地を主管する自治体だけでなく、地元で活動するNGO/NPO、商工会、観光協会などのエントリーも歓迎です。みんなで、全国のラムサール条約登録湿地を盛り上げましょう。
 エントリー料は1団体1万円。申し込み締め切りは5月11日です。お問い合わせおよび申し込みは、下記へどうぞ。


「湿地の恵み展」実行委員会事務局:
NPO法人日本国際湿地保全連合 担当:小畑 知未
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-7-3 NCC人形町ビル6F
電話:03-5614-2150/FAX:03-6806-4187




●フィールド・ワークショップ<久米島>/KODOMOバイオダイバシティ<久米島>報告●

 4月24日(金)〜26日(日)、沖縄県の久米島で、RCJ第80回<ワイズユース>ワークショップとして、「フィールドワークショップ<久米島>」が開催されました。広報・募集期間が短かったのにもかかわらず、北海道から沖縄まで、25人が参加しました。そのうち、滋賀県の琵琶湖、沖縄県の漫湖からは、7人の子どもたちも参加してくれました。
 1日目の夕方に、久米島に到着。翌日は午前中、久米島自然文化センターで島の歴史や自然の概観について学習したあと、ラムサール条約登録の根拠となった「幻の水生ヘビ」キクザトサワヘビの生息する渓流湿地をウォーキング。ヘビには出会えませんでしたが、数多くの固有種を育んだ亜熱帯林の自然を満喫しました。
 午後は、久米島ホタル館で、久米島ホタレンジャーの子どもたちと、琵琶湖、漫湖の子どもたちによる湿地交流が実現。地球環境基金が内定したので、この湿地交流は今年度からスタートする「KODOMOバイオダイバシティ」活動の1つとしておこなわれ、滋賀県から駆けつけた中村大輔先生をファシリテーターに、湿地の生きものを守るにはどうしたらいいかをみんなで考えました。
 午後の久米島自然文化センターでのワークショップでは、岩間徹RCJ副会長の「ラムサール条約と湿地の賢明な利用」と、宇江洲盛元久米島自然文化センター前館長の「久米島の自然と文化」の講演のあと、地元の参加者との質疑応答。そして夜8時からは、待望のクメジマボタルの集団発光の観察会をおこないました。低温と強風で、ホタルの数はいつもより少なかったようですが、茂みの奥をながれる小川の周囲で、思いの外つよい光で豆電球のように点滅するホタルの姿は、参加した全員にとって忘れられない光景となりました。
 夜8時過ぎからの懇親会には、平良朝幸久米島町長も駆けつけ、もずくやタコなど海の幸を肴にオリオンビールと久米島焼酎を心ゆくまでに味わうことができました。温かく迎えてくださった久米島のみなさんに、心からお礼を申し上げます。
 ワークショップへの参加会員は、岩間徹、武者孝幸、中村玲子、小澤章子、市川智子、宮崎佑子、鈴木和信、岡本嶺子、安部尚子、中村大輔のみなさんでした。



●日本経団連自然保護基金は不採択でした●

 今年度、日本経団連自然保護基金(KNCF)に助成申請していた「アジアの湿地と生物多様性の保全と賢明な利用を前進させるためのAWS2008勧告『ハノイコール』の実施活動」は、残念ながら不採択でした。KNCFは、2000年度から継続してRCJのアジアにおける湿地CEPA活動を支援し、「アジア湿地シンポジウム」を共催するなど、アジアの湿地保全を大きく前進させるのに貢献しました。これまでの支援に、改めて感謝したいと思います。
 幸い、財団法人北海道河川防災研究センターのように、協力の継続を約束してくれている団体もあります。アジアにおけるRCJ活動の停滞を少しでも避けるため、新たな財源や助成金の獲得をふくめ、事務局としてもいっそう努力を重ねていくつもりです。会員のみなさんの知恵も貸してください。よろしくお願いします。



●お礼・ノートパソコン●

 前号で、ラムサールセンター事務局で活用する中古ノートパソコンを譲ってほしいと呼びかけたところ、堀史郎さんと漫湖水鳥湿地センターからご厚意の申し出があり、ありがたくお受けしました。ご協力、どうもありがとうございました。



●RCJ会員の新刊のご紹介●

◆「ニホンカワウソ−絶滅に学ぶ保全生物学」
 ラムサールセンター会長の安藤元一さん(東京農業大学准教授)が学生時代から手がけてきたカワウソ研究37年の集大成です。湿地生態系の頂点に位置するカワウソは、ラムサール条約でも水鳥にならぶ重要な指標ですが、ニホンカワウソは1970年代におそらく絶滅していました。しかし、30年近くが経過したいまも、公式には「絶滅種」でなく「絶滅危惧種」のまま。安藤さんは、豊富な史料と科学的データをもとに、本書をもってニホンカワウソに絶滅の引導を渡しました。1つの種の絶滅がなぜ起こったのかが、淡々と語られていきます。東京大学出版会刊。4620円。
RCJボランティア、佐々木優さんの感想:
 私は日本にカワウソがいたことをこの本で初めて知りました。この本で一番興味を惹かれたのは、カワウソが河童のモデルだったということ。可愛らしいカワウソと妖怪の河童が繋がらなかったけれど、納得しました。確かに河童のモデルだと思いました。
 動物や環境を滅ぼすのは簡単ですが、回復するには果てしなく時間がかかるということもわかりました。いつかコウノトリやトキのようにカワウソが再導入され、日本の昔の風景と同じものを見る日がくるのかも知れないけれど、でもそのカワウソは海外のものですから、水辺からひょっこり顔をだしているカワウソを見たいとも思うけれど、反面人が滅ぼしてしまったのだから、このままの自然もしかたないのかもしれないと思いました。

「干潟の海に生きる魚たち−有明海の豊かさと危機」
 「有明海の魚類は値段のつけようがない、かけがえのない自然遺産だが、これまで特異な生きものにばかり焦点が合い、まとまって書物に著されたことはなかった」とする日本魚類学会自然保護委員会(委員長・細谷和海)が、有明海の自然環境と動物相への無用な操作をあらためて問い直すメッセージとしてまとめたもの。RCJ会員の田北徹さん(長崎大学名誉教授)と、同大水産学部准教授の山口敦子さんが責任編集しています。日常の食卓で、何も考えずにおいしく口にしている煮魚や焼魚の背景にある生態や生活史、そして生息地の干潟にで何が起こっているのかが、専門家の口によって詳しく語られます。日本人の胃袋を支えてきたのは「干潟の海」だったことをあらためて教えられます。東海大学出版会刊。3360円。

「環境問題の杞憂」
 RCJ元会長のの藤倉良さん(法政大学教授)の書き下ろし新書。2006年刊なので新刊ではありませんが、このたび第6刷が出て、総発行部数は2万3000部に。こうした「地味な」本が2万人以上の人に読まれていることが、うれしい。新潮新書。735円。



●RCJ総会のお知らせ●

ラムサールセンター第19回総会を、5月30日(土)午後におこないます。
会場は明治学院大学(白金キャンパス)の法律科学研究所会議室。
詳細は改めてご連絡しますが、会員の方はご予定の調整をお願いします。
◆2009年度会費(8000円)を受け付けています。ご協力をお願いします。



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