Ruoergai(若爾盖)



 若爾盖(Ruoergaiルオアルガイ)高原湿地は、海抜3400〜3900m、面積約100万ha、チベット高原の東端に位置し、四川省と甘粛省にまたがっています。49万haに及ぶ保存状態の良い高原泥炭地を擁し、これは現存する世界最大の高原泥炭地であり、また中国の全泥炭地面積のほぼ15%に当ります。
 域内には、若爾盖自然保護区、〔「乃」の下に「小」〕海則岔(Gahai Zechaガーハイズチャ)自然保護区、黄河首曲自然保護区、日干喬(Rigantiaoリーガンチャオ)自然保護区の4つの自然保護区があり、オグロヅルやオオズグロカモメなどの鳥類や、ナキウサギ、ヒマラヤ・マーモットなどの哺乳類、さまざまな高山植物など、希少生物の宝庫でもあります。
 この地の住人12万5000人のほとんどはチベット族の遊牧民であり、膨大な数のヤク、羊、馬、山羊を放牧しています。
 黄河の水源地帯のひとつであるこの地の湿地に、近年、乾燥化の危機が忍び寄っています。主な原因には、人口急増と経済成長により過放牧や耕地化が進むという人為的なものと、温暖化という地球的な問題があります。乾燥化が進んでこの地が砂漠化した場合、放牧が不可能になるばかりではなく、表土の飛散、黄河の涸渇といった全中国的な惨事をもたらすことも予想されます。
 中国政府も真剣に対策に取り組んできています。2004年7月、中国国家林業局、Wetlands International-China Office、甘粛省林業庁地球環境センターの共催で「泥炭地の保護と持続的利用に関する国際検討会」(蘭州)が開催されたのも、その努力の一環でしょう。

若爾盖
高原湿地

緯 度:
 北緯: 32°54'-34°30'
東経: 101°15'-103°16'
所在地: 中国、四川省・甘粛省
面積: 約100万ha


山や丘陵を越えるたびに一望千里の広大な草原が。ど真ん中を道路が横切っているところも。

膨大な数のヤクや羊が放牧されている。過放牧で草地が荒れた場所もある。

放牧地は、ヤクや羊が好まない草だけが花を咲かせ、お花畑となる。ピンク、黄色、紫、青、さまざまな花が咲き乱れ、植物好きにはたまらない。

お花畑の美しい花々の中でも目立つ「狼毒 Stellera chamaejasme」。ジンチョウゲ科。家畜の虫下しに使うほか、チベットの伝統的な紙作りに用いられてきた。
「わが国の紙の原料になっている『ミツマタ』や『ガンピ』もジンチョウゲ・ファミリーでしたね」とは、同行した北海道の岡田操さんの指摘。なるほど。

若爾盖自然保護区、花湖を見下ろすテント。チベット風食堂です。
 この周辺の草原にはナキウサギがいっぱい。対岸にはオグロヅルが遠望できました。

黄河は水源から河口までに9回も大きく曲がります。その最初の大曲がりがあるのが黄河首曲自然保護区。「黄河九曲第一湾」といい、観光名所となっています。奥に見える川がそれ。右の騎馬のおじさんは地元の方。左手はチベット仏教の僧院(索克蔵寺)。上空にヒマラヤハゲワシが帆翔してました。

泥炭採取地。大規模に行われると、草原の直接的破壊となり、周辺の乾燥化も避けられない。以前は燃料として、現在は土壌改良用に掘り出されているという。
「屋上緑化の切り札──中国四川省産高原(紅原)泥炭利用の"土"を超えた"夢のような土"を開発」と、日本でも売り出されているのをネットで見ました。ウーン。
湿原には、カナルと呼ばれる水路が自然にできることがあります。カナルがだんだん深くなると、水が集まって周囲が乾燥化します。
土嚢を入れて流れをせきとめ、乾燥化を防いでいるところです。
当地は甘粛省側も四川省側も藏族自治州、完全にチベット文化圏です。
 地元の若い男女が歌と踊りで私たちを迎え、純白のハダ(薄絹)をささげてくれました。チベット族の歓迎の儀式です。
ヤクは運送、食肉、乳、毛、皮革……と100%利用される大事な家畜。チベット人は見事にヤクを乗りこなし、かなりのスピードで駆けることも。
 写真は、チベット人ではなく私。ヤクは思ったほど大きくなかった。
写真・文: 長井 弘勝
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